2022年 東京医科歯科大学 化学 一問一答と解説
【問題分析】
東京医科歯科大学の化学は高校の範囲を超えた問題が多く出題されています。
2022年の問題は2021年に比べて取り組みやすい感じがします。
取り組みやすいといっても時間の割に問題が多いので、得意な分野の問題から取り組むのがいいと思います。大問1~3はどれもほぼ同じ難易度です。
2022年の東京医科歯科大学の化学の入試問題から一問一答を作ってみました。
【解答上のポイント】
問題1は無機化学系の問題です。
問1~4、問6は標準的な問題です。確実に得点したい問題です。
問5は、まず初めに反応式を書きますが、反応式中の係数が一つに決まらないので非常に難しかったと思います。
【一問一答】
Q-01.
問1
・硝酸は,工業的にはアンモニアを原料として次のように製造される。アンモニアを空気と混合し,白金触媒を用いて約800 ℃ に加熱して酸化物を生成する。冷却後,さらに酸化させた後に水と反応させて硝酸が合成される。この合成法は( A ) 法と呼ばれる。硝酸は強酸として働くほか,強い酸化剤としても働く。銅や銀を酸化して溶かし,濃硝酸では主に( B ) が,希硝酸では主に( C ) が発生する。一方,鉄やアルミニウムは濃硝酸には溶けず,( D )
と呼ばれる状態になる。
・食品に含まれるタンパク質は脂質、炭水化物(糖類)とともに( E )と呼ばれる。
A~Eの空欄に当てはまる適切な語句または化合物名を答えよ。
A-01.
・硝酸は,工業的にはアンモニアを原料として次のように製造される。アンモニアを空気と混合し,白金触媒を用いて約800 ℃ に加熱して酸化物を生成する。冷却後,さらに酸化させた後に水と反応させて硝酸が合成される。この合成法は( オストワルト ) 法と呼ばれる。硝酸は強酸として働くほか,強い酸化剤としても働く。銅や銀を酸化して溶かし,濃硝酸では主に( 二酸化窒素 ) が,希硝酸では主に( 一酸化窒素 ) が発生する。一方,鉄やアルミニウムは濃硝酸には溶けず,( 不動態 )と呼ばれる状態になる。
・食品に含まれるタンパク質は脂質、炭水化物(糖類)とともに( 三大栄養素 )と呼ばれる。
解説
きわめて基本的な問題です。確実に解答したい問題です。
Q-02.
問3
窒素と水素からアンモニアを合成する反応は可逆反応であり,熱化学方程式は式(1)で表される。
N2(気体)+ 3H2 (気体)= 2NH3 (気体)+ 92 kJ (1)
ルシャトリエの原理に基づくと,アンモニアの生成率を高めるためには,( ア )の条件にすることが望ましい。
( ア )に当てはまる語句を記せ。
A-02.
低温・高圧
解説
ルシャトリエの原理から低温・高圧にすると平衡が右に移動します。
Q-03.
問4
窒素と水素からアンモニアを合成する反応は可逆反応であり,熱化学方程式は式(1)で表される。
N2(気体)+ 3H2 (気体)= 2NH3 (気体)+ 92 kJ (1)
工業的には,アンモニアを効率的に大量生産するために,触媒を用いて,温度400~600 ℃,圧力2×107~5×107 Paの条件で合成が行われている。
この条件で合成を行う理由を述べよ。
A-03.
温度が低いと反応速度が遅く、平衡状態に到達するまでに時間がかかるので、あまり低温にせずに触媒を用いて生産が行われている。
解説
この問題は頻出です。
Q-04.
問5
排ガス中にアンモニアを注入し,高温の反応器内に据え付けられた二酸化チタンTiO2を主成分とする触媒上でNOxを還元させる。このとき,酸素も反応に関与し,窒素と水(水蒸気)に変換される。これをアンモニア選択接触還元法という。
二酸化窒素をアンモニア選択接触還元法によって処理したときの反応式を示せ。
A-04.
反応式が一つに定まらないため、複数の答えがあります。
2NO2 + 4NH3 + O2 → 3N2 + 6H2O
これ以外にも、
2NO2 + 8NH3 + 4O2 → 5N2 + 12H2O
4NO2 + 12NH3 + 5O2 → 8N2 + 18H2O
以上 大学が発表している解答例
解説
反応する物質と生成する物質が問題文中に与えられているので、係数を決める前までの反応式はすぐに書けると思います。
反応式は次のようになりますが、未定係数法では解けません。
aNO2 + bNH3 + cO2 → dN2 + eH2O
理由は、
N: a+b=2d
O: 2a+2c=e
H: 3b=2e
となり、変数が5に対して式が3しかできないためです。
係数の決め方はいろいろあると思いますが、方法の一つのとして、まず 3b = 2eに注目します。すなわち b : e = 2 : 3の関係になっています。
ここで b = 2、e = 3とし、さらに a = 1と仮定して左辺と右辺のNの数があうようにすると d = 3/2 となります。酸素の数が合うようにcをきめると c = 1/2 となります。
係数を整数にすると、回答で示した一番初めの反応式になります。
Q-05.
問6
硫酸アンモニウムに水酸化ナトリウムを加えて加熱し,気体を発生させた反応の反応式を示せ。
A-05.
(NH4)2SO4 + 2NaOH → Na2SO4 + 2NH3 + 2H2O
解説
弱塩基を含む塩に強塩基を反応させて、弱塩基を遊離させる反応です。
----↓ 問題2 ----
問題2はタンパク質、有機化学に関する出題です。いろいろな条件の場合に、尿試験紙の判定結果がどのようになるかを考えて答える思考力を試す問題もあります。
思考力を試す問題ですが化学の知識があれば解答できる内容です。
Q-06.
問1
・尿中に出現するほとんどのタンパク質の等電点は3.0よりも高い。pH3.0の時、尿中のタンパク質を構成する( a )基は( b )の電荷を有するようになる。
・膀胱炎などの原因となる尿路(尿が通る管)の感染症では,尿中の細菌によってタンパク質由来の硝酸塩が( c )され,亜硝酸塩が生成される。
空欄a,b,c に当てはまる適切な語句を書け。
A-06.
・尿中に出現するほとんどのタンパク質の等電点は3.0よりも高い。pH3.0の時、尿中のタンパク質を構成する( アミノ )基は( 正 )の電荷を有するようになる。
・膀胱炎などの原因となる尿路(尿が通る管)の感染症では,尿中の細菌によってタンパク質由来の硝酸塩が( 還元 )され,亜硝酸塩が生成される。
解説
・タンパク質(アミノ酸)が等電点よりも酸性側や塩基性側になったとき、-NH2と-COOHがどのようになるかすぐに言えるようになってかなければなりません。
・NO3-がNO2-になったとき、NO3-は還元されています。
Q-07.
問2
細菌によって尿中の尿素が分解されるとpHはどうなるか
A-07.
尿素が分解されるとアンモニアが発生し、尿が塩基性になる。
Q-08.
問4
尿中亜硝酸塩の検査に使われる試薬として下記の二つの化合物(a),(b)が用いられる。まず,化合物(a)が亜硝酸塩由来の亜硝酸イオンと反応し,生成した化合物が化合物(b)と反応して,最終的な生成物は着色した。化合物(b)が関与する反応名を示し,最終生成物の構造式を書け。ただし,反応の際,化合物(b)は下図の矢印(↓)の箇所が置換されるものとする。
A-08.
反応名:(ジアゾ)カップリング反応
構造式
解説
問題文にはいろいろな反応が起こると書いていありますが、解答するためには出題の意図を素早く見抜けるかどうかにかかっています。
-NH2が付いたベンゼン環が亜硝酸と反応し、生成した化合物がベンゼン環と反応するということから、アニリンと亜硝酸を反応させてアニリン塩酸塩を合成し、さらにナトリウムフェノキシドと反応させてp-ヒドロキシアゾベンゼン(p-フェニルアゾフェノール)を合成する反応を連想できなければなりません。
これが分かれば解答は難しくないと思います。
Q-09.
問5
酢酸カルシウムを熱分解したときの反応式を書け。
A-09.
(CH3COO)2Ca → CH3COCH3 + CaCO3
解説
大問の途中で突然基本的な問題が出てきます。難しい問題で時間を消費してしまう前にこのような簡単な問題は解答しておきたいです。
----↓ 問題3 ----
問題3は酵素の反応に関する問題です。
問題文には
E+S ⇄ ES → E+P
という見たことがあるような反応式が書いてあります。
反応速度が最大になるときなど、標準的な問題集に載っている問題ですので解答しやすかったのではないでしょうか。
ほとんどの問題は反応速度に関するもので、酵素の問題というよりは理論化学の問題です。
Q-10.
問1
酵素が働きかける物質を基質といい,特定の基質にだけ作用する性質を酵素の( a )という。働きが活発になる条件は酵素によって異なり,触媒作用が最大になる温度のことを( b ),触媒作用が最大になるpH のことを( c )という。
a,b,c に当てはまる適切な語句を記せ。
A-10.
酵素が働きかける物質を基質といい,特定の基質にだけ作用する性質を酵素の( 基質特異性 )という。働きが活発になる条件は酵素によって異なり,触媒作用が最大になる温度のことを( 最適温度 ),触媒作用が最大になるpH のことを( 最適pH )という。
解説
触媒作用が最大になる温度の答えが( 最適温度 )など、こんなのが答えか?というような問題ですが例えば「化学早わかり一問一答 p254, 255」にも載っている通り、これが正しい解答です。