2021年 名古屋大学 化学 一問一答と解説
2021年の名古屋大学の入試問題から一問一答を作ってみました。----↓ 問題Ⅰ----
問題Ⅰは浸透圧の問題でした。問題設定が複雑で、設問の初めの方は物理のように記号で計算式を答えます。後の方の設問では、記号で建てた式に具体的な数値を入れて計算しますが、かなり複雑な計算となります。 設問(2)は、計算過程にトリックがあるため、数字の桁数に注意して計算しないと、大学が発表している答えにはなりません。
問題Ⅰは一問一答用の題材がなかったので、省略します。
----↑ 問題Ⅰ----
----↓ 問題Ⅱ----
問題Ⅱは元素、無機化学系のよくある問題です。何題か計算問題はありますが問題Ⅰよりはずっと取り組みやすい問題です。
Q-01.
設問(1)ア
地殻中に存在する元素を多い順に6番目まで答えよ。
A-01.
O, Si, Al, Fe, Ca, Na
語呂 おっしゃるてかな
2020年でも同じような問題が出題されています。過去問の練習は重要です。
Q-02.
設問(1)イ
赤鉄鉱と磁鉄鉱の化学式を答えよ。
A-02.
赤鉄鉱 Fe2O3
磁鉄鉱 Fe3O4
Q-03.
設問(1) ウ
高炉で得られる銑鉄に約4%含まれているものは何か。
A-03.
炭素C
Q-04.
設問(1) エ
トタンとブリキは鉄に何をメッキしたものか答えよ。
A-04.
トタン
鉄に亜鉛をメッキ。屋外のような水にぬれるところで使われる。鉄の腐食防止
ブリキ
鉄にスズをメッキ
缶詰など、常に水分と接触する部材に用いられる。
語呂 会えた(亜鉛)途端(トタン)にすぐ(スズ)ぶり返す(ブリキ)
Q-05.
設問(1) オ
ジュラルミンは何の合金か答えよ。
A-05.
Al、Cu、Mg 、Mn
語呂 ジュラルミンは、あるくマグマン Alある:Cuく:Mgまぐ:Mnまん
Q-06.
設問(1) カ
Alが酸とも強塩基とも反応する性質を何というか。
A-06.
両性
Q-07.
設問(2)
Fe2O3を一酸化炭素COで還元するときの反応式を示せ。
A-07.
Fe2O3 + 3CO → 2Fe + 3CO2
Q-08.
設問(7)
Alと水酸化ナトリウムの反応式を示せ。
A-08.
2Al+ 2NaOH + 6H2O → 2Na[Al(OH)4] + 3H2
----↑ 問題Ⅱ----
----↓ 問題Ⅲ----
問題Ⅲは有機化学の定番問題である有機化合物の構造決定の問題です。
この問題のポイントは「さらに化合物Bには、二つの幾何異性体が存在する。化合物AとBを加水分解すると、
いずれからもカルボキシル基をもつ化合物Cとともに、
不安定な中間生成物を経て生じる化合物Dが得られた。」の文章の中にある「不安定な中間生成物」が何かわかるかどうかです。
わからなければこの問題を解答するのは難しくなります。この「不安定な中間生成物」はC=Cの二重結合に-OHが付いたエノールというものです。
エノールは不安定なため、炭素はC-Cの単結合(一重結合)となり、代わりにC=O結合ができます。
これに気が付けば、C=Cのところにエステル結合ができた化合物と分かり、構造を推定していくことができます。
Q-09.
設問(1) イ
ポリエチレンテレフタラートを作るのに必要な化合物を2つ答えよ。
A-09.
テレフタル酸とエチレングリコール
Q-10.
設問(1) ウ
CH3C=O基を持つ化合物に塩基性条件下でヨウ素I2を作用させたときに生じる、特有の臭気を持つ黄色沈殿を何というか答えよ。
A-10.
ヨードホルム、CHI3
----↓ 問題Ⅳ----
問題Ⅳはフェノール樹脂やセルロースを原料とする繊維に関する問題です。一見簡単なようですが非常に細かい知識が要求されます。かなり詳しく覚えておかないと正確に解答できません。 フェノール樹脂に関しては、本問題のレベルまで詳しく解説した参考書がなかなかないのではないでしょうか。例えば、「鎌田の有機化学の講義」に書いてある内容では本問をすべて解答するには不十分です。 フェノール樹脂は工業的に重要なので、いろいろな大学でよく出題されています。 フェノール樹脂の反応機構を理解して覚えていけば、なぜそうなるのか分かるため、全体の理解は容易です。 フェノール樹脂の詳細解説を参考にして下さい。 繊維の問題の方も、作り方を詳しく覚えておかなければ解答できません。 問題Ⅳは、知っていれば解答は簡単で、短時間で高得点を稼ぐことができますが、知らなければ点数をとるのが難しい問題です。 問題Ⅳ 問2 設問(3)の計算問題は、最後まで分数で計算して方程式を解かないと、大学が発表している答えにはなりませんので注意が必要です。 途中で割り算をして小数点を含む式で計算すると、最後に四捨五入した時、1.4になってしまいます。
Q-11.
問1 設問(1)
塩基を触媒として1分子のフェノールが1分子のホルムアルデヒドに付加して生成する主な二つの異性体の構造式を書け。
ただし、この反応条件ではフェノールのベンゼン環のオルト位またはパラ位で付加するとする。
A-11.
Q-12.
問1 設問(2)
フェノールとホルムアルデヒドの反応において、用いる触媒の違いにより、液体または柔らかい固体の中間生成物ができる。
それぞれ何というか答えよ。
A-12.
液体: レゾール
柔らかい個体: ノボラック
解説
ノボラックとレゾールは下記のような図のものです。
ノボラックは直線の形状で、ある程度重合が進んだ中間体です。
レゾールは重合が進まず、-CH2OH 基(メチロール基)が付加しているところに特徴があり、ノボラックに比べて平均分子量の小さな中間体です。
Q-13.
問1 設問(2)
フェノールとホルムアルデヒドの反応において、用いる触媒の違いにより、液体または柔らかい固体の中間生成物ができる。
それぞれ酸または塩基のどちらの触媒を使用するか答えよ。また、それぞれの中間体の名称を答えよ。
A-13.
液体: 触媒-塩基、名称-レゾール
柔らかい個体: 触媒-酸、名称-ノボラック
解説
レゾールは平均分子量が小さいため液体で、ノボラックは平均分子量が大きいため固体状と考えられます。
Q-14.
問1 設問(2)
ノボラックとレゾールの内、加熱でフェノール樹脂ができるのはどちらか、また硬化剤を加える必要があるのはどちらか答えよ。
A-14.
加熱: レゾール
硬化剤: ノボラック
Q-15.
問1 設問(3)
ノボラックとレゾールの内、水が脱水して縮合するのはどちらか答えよ。
A-15.
レゾール
Q-16.
問1 設問(3)
ノボラックとレゾールの内、平均分子量が大きいのはどちらか答えよ。
A-16.
ノボラック
Q-17.
問1 設問(3)
フェノール樹脂は電気の良導体または電気絶縁性のどちらか答えよ。
A-17.
電気絶縁性
Q-18.
問1 設問(4)
ノボラックを加熱するだけではフェノール樹脂は生成しない。理由を答えよ。
A-18.
-CH2OH 基をもたないため、加熱しても分子間で縮合反応 が進行せず、立体網目構造を形成しないから。
「-CH2OH」の代わりに,ヒドロキシメチル,メチロール,縮合可能なヒドロキシ,なども可。
Q-19.
問2 設問(1)
化学繊維は製法の違いで3つに分類される。3つを答えよ。
A-19.
再生繊維、半合成繊維、合成繊維
Q-20.
問2 設問(2)
ビスコースレーヨンの一般的な製法を以下に示す。( )に当てはまる言葉を答えよ。
セルロースを濃い( )に浸したのち、( )に浸す。このように処理したセルロースを薄い( )に溶かすと、
ビスコースと呼ばれる( )色のコロイド溶液が得られる。ビスコースを細孔から( )中に押し出すとビスコースレーヨンが得られる。
A-20.
セルロースを濃い(水酸化ナトリウム水溶液)に浸したのち、二硫化炭素 CS2)に浸す。
このように処理したセルロースを薄い(水酸化ナトリウム水溶液)に溶かすと、
ビスコースと呼ばれる(赤褐)色のコロイド溶液が得られる。ビスコースを細孔から
(希硫酸)中に押し出すとビスコースレーヨンが得られる。
解説
実際の入試問題では選択肢から用語を選ぶ形式の問題でした。選択肢の中には銅アンモニアレーヨンと勘違いさせるようなものが含まれていました。
ビスコースレーヨンと銅アンモニアレーヨンは違いますので区別して覚える必要があります。