2019年 神戸大学 化学 解説

【問題分析】

2019年の神戸大学の化学の問題は、2018年の問題に引き続き、基礎的なことがしっかりとできていればほとんどの問題に解答することができます。

----↓ Ⅰ ----

【解答上のポイント】



----↑ Ⅰ ----

----↓ Ⅱ ----

【解答上のポイント】

Ⅱは溶液の平衡に関する問題です。
平衡の問題は入試の定番で、問題によっては非常に難しい問題が出題されることもありますが、 Ⅱの問題は非常に簡単な問題設定なので全問正解したいです。
問1と問3は知識問題、問2は平衡の計算問題です。

問1はリンに関する知識問題です。ア~エの問題は定番の問題です。 特殊な問題はないので、すべて正解できなければなりません。
あえて注意すべき問は「イ」でしょうか。黄リンは空気中で自然発火するので水中に保存します。
Na等を石油中に保存するのと混同しないようにしましょう。
リンは無極性分子なので石油に入れると溶けてしまうので水の中に保存します。

問2は平衡の計算問題です。

2019年神戸大学Ⅱ問2-1

2019年神戸大学Ⅱ問2-2

「A」と「C」はそれぞれH3PO4の1個のH、H2PO4- の1個のHと反応するOH-の数になります。
従って点Xまでに加えるNaOHのモル数はH3PO4のモル数と同じになります。実際にはmLを計算して答えることになります。 初めに存在したH3PO4も、Hを1個だけ中和してできたH2PO4-も同じモル数なので、 「A」と「C」は同じモル数=体積になります。

「B」に関しては(8)式が問題文に書いてあるので簡単に計算できます。もし(8)式が与えられていなければ、 自分で導出しなければならないので少し難しくなります。この問題は親切な設定になっています。

pH = -log10[H+]なので

\(\displaystyle [H^{+}]^{2} = K_{1}K_{2}\)     (8)

から

\(\displaystyle \ log_{10} [H^{+}]^{2} = \log_{10} K_{1}K_{2}\)

\(\displaystyle \ 2 log_{10} [H^{+}] = \log_{10} K_{1} + \log_{10} K_{2}\)

\(\displaystyle \ -log_{10} [H^{+}] = -\frac{\log_{10} K_{1} + \log_{10} K_{2}}{2}\)

\(\displaystyle\log_{10} K_{1}=-2.1, \log_{10} K_{2}=-7.2\) なので

\(\displaystyle \ -log_{10} [H^{+}] = -\frac{-2.1 + -7.2}{2}=4.65\fallingdotseq 4.7\) ←Bの答え

となります。

「D」から複雑になります。
まず前提として基本的にナトリウム塩は水に溶けると完全に電離します。
したがって、Na2HPO41molからHPO42-が1mol、 NaH2PO41molからH2PO4-が1molできます。
これを前提に、0.10 mol/L のリン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)水溶液10 mL と 0.10 mol/Lのリン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)水溶液10 mL を混合し, 純水で100 mL に希釈したときのHPO42-とH2PO4-の濃度を求めます。

HPO42-のモル数は

\(\displaystyle \ 0.10 \times \frac{10}{1000}=1.0 \times 10^{-3} \) mol

これが100 mLに入っているので、濃度は

\(\displaystyle \ 1.0 \times 10^{-3} \times \frac{1000}{100}=1.0 \times 10^{-2}\) mol/L

同様にしてH2PO4-の濃度は\(\displaystyle \ 1.0 \times 10^{-2}\) mol/Lとなります。

(3)式 (H2PO4- ⇄ H+ + HPO42-) の平衡のみ考えると電離定数は

\(\displaystyle \ \frac{[H^{+}][HPO_{4} \, ^{2-}]}{[H_{2}PO_{4} \, ^{-}]}\)

となります。

ここで大ざっぱな見積もりで計算します。
問題の設定では水の電離を無視できると書いてあるので、[H+]の初期値は0です。
(3)式の平衡が少し右に移動し、[H+]が生成したとします。
K2の値は非常に小さく、6.3×10-8なので、H2PO4- がほんの少しだけ電離して[H+]が6.3×10-8mol/L生成したとすると

\(\displaystyle \ \frac{[H^{+}][HPO_{4} \, ^{2-}]}{[H_{2}PO_{4} \, ^{-}]}=6.3 \times 10^{-8} = K_{2}\)   (a)

になります。
[H+]が6.3×10-8mol/L生成するとき、H2PO4-が6.3×10-8mol/L減少し、 HPO42-が6.3×10-8mol/L生成します。
ところが、H2PO4-とHPO42-の初期値1.0×10-2mol/Lに対して変化量 6.3×10-8mol/Lは非常に小さいため

 HPO42- : 1.0×10-2 + 6.3×10-8 ≒ 1.0×10-2
 H2PO4- : 1.0×10-2 - 6.3×10-8 ≒ 1.0×10-2

となり、計算する上でHPO42-とH2PO4-の増減は無視することができるため、 [HPO42-] = [H2PO4-] となります。
この時(a)式は

\(\displaystyle \ [H^{+}]=6.3 \times 10^{-8} = K_{2} \)

となります。

pH = -log10[H+]なので(a)式の両辺対数をとり、さらに\(\displaystyle \log_{10} K_{2}=-7.2\) なので

pH =\(\displaystyle \ -log_{10} [H^{+}] = - \log_{10} K_{2}\)=7.2 ←Dの答え

となります。

このような大ざっぱな計算方法では納得いかないとなると次のように、H2PO4-が反応した濃度をαとして反応前後の濃度を計算し、方程式を立てるしかありません。

2019年神戸大学Ⅱ問2-3

このとき(a)式は

\(\displaystyle \ \frac{\alpha \times (1.0 \times 10^{-2} + \alpha)}{1.0 \times 10^{-2} - \alpha} = 6.3 \times 10^{-8} \)

\(\displaystyle \ \alpha ^{2} + (1.0 \times 10^{-2} + 6.3 \times 10^{-8})\alpha - 6.3 \times 10^{-10} = 0 \)

この式において、

\(\displaystyle \ (1.0 \times 10^{-2} + 6.3 \times 10^{-8})\alpha \fallingdotseq 1.0 \times 10^{-2}\alpha \)

と近似し、この二次方程式を解くと

\(\displaystyle \ \alpha =-1.0 \times 10^{-2}, \, 6.29996 \times 10^{-8} \)

となるので

\(\displaystyle \ \alpha =6.3 \times 10^{-8} \)

としてよいことがわかります。結論をいうと厳密に方程式を解いたとしても、大ざっぱな見積もり計算とほとんど変わりません。

「G」はHPO42-とH2PO4-の比が1:1の液に強酸であるHClを入れたとき、pHはどうなるか、という問題です。
リン酸は緩衝液、すなわち少量の酸やアルカリを加えてもpHはほとんど変化しない溶液なので、「D」と同じような値の答えが予想されます。
問題文の中に「あまり変化しない」と書いてあるので本問の場合はいいですが、もしpHの変化について書かれていなかったとしても、答えを予想することは必要です。
もし全然違う値になれば計算が間違っているかもしれないと気付くことができるかもしれません。
もちろん大量にHClを加えると緩衝機能が働かなくなり、pHは大きく変化します。

HClを入れたときの反応式として(9)式が与えられています。
この式によればHPO42-とH+は不可逆的に反応して、H2PO4-が生成することがわかります。

HPO42- + HCl → H2PO4- + Cl-     (9)

HPO42-よりもHClの方が量が少ないので、加えたHClはすべて反応し、未反応のHPO42-が残ります。
これを丁寧に書いて計算すると次のようになります。

2019年神戸大学Ⅱ問2-4

したがって、HPO42-が0.80×10-2、H2PO4-が1.2×10-2mol/Lになります。
ここからは「D」を求めたときと考え方は同じです。今回は[HPO42-]/[H2PO4-]=2/3 になっただけです。
「D」では[HPO42-]/[H2PO4-]=1だったのが2/3になったときどうなるかですが、 (4)式の両辺が等しくなるためには[H+]は「D」の時の3/2倍になればよいことがわかります。
6.3×10-8が3/2倍になっても平衡を満たすために反応する[HPO42-]も[H2PO4-]も元の濃度に比べて5~6桁小さいので計算上は無視することができます。

\(\displaystyle \ \frac{[H^{+}][HPO_{4} \, ^{2-}]}{[H_{2}PO_{4} \, ^{-}]} = K_{2} = 6.3 \times 10^{-8}\)      (4)

式(4)から

\(\displaystyle \ [H^{+}]= \frac{[H_{2}PO_{4} \, ^{-}]}{[HPO_{4} \, ^{2-}]} \times K_{2} = \frac{3}{2} \times K_{2}\)

H = -log10[H+]なので上式の両辺対数をとり、さらに\(\displaystyle \log_{10} K_{2}=-7.2, \, \log_{10} 2.0=0.30, \, \log_{10} 3.0=0.48\) なので
pH =\(\displaystyle \ -log_{10} [H^{+}] = - (\log_{10} 3.0 + \log_{10} K_{2}-\log_{10} 3.0) = - (0.48 -7.2 -0.30) =7.02 \fallingdotseq 7.0\)  ←Gの答え

となります。
計算するとき、K2の値6.3×10-8を入れて計算してしまうと、logの計算できなくなってしまうので注意が必要です。

----↑ Ⅱ ----

----↓ Ⅲ ----

----↑ Ⅳ ----


<終わり>