最近、昇華の反対の表現方法が「昇華」から「凝華」に変わった話
入試に頻出の事項で、物質の三態があります。三態とは固体、液体、気体の状態のことをいいます。
固体、液体、気体の状態はいいとして、固体から液体、液体から気体、固体から気体に変化することを何というか、というような問題がよく見られます。
・固体から液体は「融解」、その反対の液体から固体は「凝固」
・液体から気体は「蒸発」、その反対の気体から液体は「凝縮」
それでは、固体から気体になることを何というでしょうか。
答えは「昇華」です。
ここまではいいとして、ここからが問題です。気体から固体になることを何というでしょうか。
最近までは、気体から固体になることも「昇華」といわれていました。教科書や参考書でも気体から固体になることを「昇華」と記載されていました。
固体から気体になることと「昇」という漢字の意味はイメージとしてよく合っています。しかし、気体から固体になることも昇華というのは違和感があります。
英語では、固体から気体はsublimationというのに対して、気体から固体はdepositionといい、異なった表現が与えられています。
日本でも昔から固体から気体へ変化するときの状態変化の名称について議論されてきました。
そして最近、気体から固体になることを「凝華」に改められました。
例えば、啓林館の教科書では2022年以降のものは、気体から固体になることを「凝華」としています。
状態変化の現在の名称をまとめると下の図のようになります。今回の変更により、下向きの状態変化は一文字目にすべて「凝」が付くことになります。
尚、参考までに英語の表現を示します。
昇華の例としては、固体のドライアイスから気体の二酸化炭素になる変化、固体のヨウ素が気体のヨウ素になる変化などがあります。いずれも液体の状態を経ずに固体から直接気体になっています。
ところで、なぜ気体から固体への状態変化も昇華といわれてきたのかは不明ですが、細矢*によるとヨウ素などの昇華精製が固体→気体→固体一連のプロセスで行われているためではないかとされています。
ヨウ素の昇華精製は、固体のヨウ素を加熱し、すぐ上に置いた水を入れた丸底フラスコの底にヨウ素を析出させる実験が知られています。
私はこれまでの入試問題で、「気体から固体になることを何というか」という問題は見たことがありません。大学の先生もこの辺りはいろいろ議論があることを知っていたのでしょうか。
しかし、気体から固体になる変化に対しては、わかりやすい表現に改められましたので今後は出題されることがあるかもしれません。
* 参考文献 細矢治夫,"「昇華」の逆は「凝華」", 化学と教育 61巻 7号 366 (2013年)
<終わり>