2023年 北海道大学 化学の入試問題の感想と解説
北海道大学 2023年の化学の入試問題の感想です。
全体の感想
全体を通してみると割と簡単な問題が多かった印象です。ただし問題量はそれなりに多いので、簡単な問題を選んでいかに速く、正確に解答していくか、というスピード勝負の感があります。
また知識を問う問題が非常に多いので、高得点を取るためには知識量が必要です。
知識はできるだけ語呂合わせを多用して覚えていきましょう。覚える必要がある知識は非常に多いので、語呂合わせなしで覚えるのは困難です。
アミノ酸の性質はもとより、アミノ酸の名前も覚えておかなければならない問題がありました。
知識問題は通常の範囲から逸脱した、見たこともないようなものはありませんでした。入試に出てきてもおかしくないものばかりです。
また、問題文に書いてある語句を正確に理解しておく必要があります。
例えば、1.ーⅠー問1ー(2)の「単体を生じる」の『単体』、3.ーⅠの『直鎖状構造』などです。
単体とは1種類の元素からできている物質でO2等、直鎖状構造は環状構造ではないのはもちろんのこと、環状構造でなくても枝分れしているものは含みません。
3.ーⅠでは「直鎖状構造」の異性体の数を求める問題でした。直鎖状構造が何を指すのかしっかり理解していないと枝分れしたものまで数えてしまい、正解には至りません。
入試で出題される知識問題はほとんど決まっており、高得点を取るためには抜けがないように覚えておく必要があります。
知識問題の確認でおすすめなのが、「化学基礎早わかり 一問一答」と「化学早わかり 一問一答」です。この問題集の入試における語句問題のカバー率は非常に高いです。
グラフを見て解答する問題は、細かい計算をするのではなく、原理に基づいて形で判断する問題がありました。原理を理解していれば簡単に答えられます。
各問題の解説
1.
Ⅰ
Ⅰは理論化学、無機化学の問題でした。
問1は結合やハロゲンに関する基本的な問題です。ここは全問正解できるレベルの学力でないと北海道大学合格は厳しいと思います。
(1)は選択肢が与えられている空所補充の問題ですが、選択肢なしでも答えられなければならないレベルの問題です。
なぜ選択肢が与えられているのか不思議です。
(2)はハロゲンの反応性の高さを問う問題です。例えばKClとBr2を混合した時、反応が起こるかどうか判断できなければなりません。
またF2とH2O、Cl2とH2Oの反応の違いが判らなければ答えられません。
それぞれの反応式は次の通りです。
F2とH2Oの反応では単体のO2が生じますが、Cl2とH2Oの反応では単体は生じません。
2F2 + 2H2O → 4HF + O2
Cl2 + H2O ⇄ HCl + HClO
(3)はハロゲン化ナトリウムの融点に関する問題です。結合距離が短いほど結合力が強くなるため融点が高くなります。
MgOやCaOなどは2価のイオンなので結合力が強くなるため、ハロゲン化ナトリウムよりも融点は高くなります。
(4)はハロゲン分子の沸点を答える問題です。分子間力が強い=分子量が大きいほど沸点が高くなります。
問2は実在気体についての問題です。
理想気体ではZ=PV/(nRT)の値は1ですが実在気体は1からずれます。過去に同様の問題を解いたことがあれば、解答しやすかったと思いますが、初見で問題を読みながら理解していたのでは時間を消費してしまいます。
実在気体の問題は、例えば化学重要問題集2021ー64に載っています。
(3)はCH4(300K)、CH4(400K)、NH3がグラフのどれに当たるかを答える問題でした。
細かい計算なしに推測していく問題です。NH3は分子間の相互作用が大きいためずれが一番大きい、CH4(300K)とCH4(400K)に関しては、温度が高いほうが熱運動が活発になり分子間の相互作用が小さくなるため、理想気体に近くなる、というように判断します。
Ⅱ
Ⅱは反応速度と平衡の問題でした。
問1は空所補充問題でⅠと同様に選択肢が与えられていますが、これも選択肢無しで答えれれなければならない問題です。
問3は計算問題ですが、平衡定数に関する非常に基本的な問題です。ただし(3)は酢酸エチルの濃度をxとすると次のような複雑な2次方程式を解く必要があります。
4.08=x2/(6.2-x)(11-x)
問題には選択肢が与えてあるのでこの方程式をまじめに解かなくても解答はできます。というか正確に解くことは不可能です。
式と比べると(ら)6.2、(り)9.8は分母が0になったり、マイナスになったりするので違うと分かります。残りの選択肢を当てはめて考えると(よ)の5.1を右辺に代入して計算すると左辺の4.08に近くなります。
問4は反応速度の基本的な問題です。特に難しい点はなかったと思います。
(3)は傾きが近いものを選べばよいので図から計算しなくても(A)が近いと分かります。
2.
Ⅰは無機化学の問題でした。
ほとんど基礎的な問題です。
例えば問2は両性金属を選ぶ問題ですが、これも常識として覚えておかなければなりません。
代表的な両性金属はZn、Al、Sn、Pb(語呂 あ あ す なお)です。
問6は計算問題で少し考えてしまうかもしれません。Siが+4なのに、Siの一部が+3のAlで置き換わると+が不足してしまうので、+2のCaが何個必要ですかという問題です。
Ⅱは酸化還元と電池の問題です。これも非常に基本的な問題です。知識をしっかり固めておけば迷うことがない問題です。
問6は計算問題でしたがこの問題では電流、時間、電気量の関係がわかっていなければなりません。
勉強する過程で、理解をあいまいにして終わらせてしまっているかもしれません。
電流(A)×時間(s)=クーロン(C)
です。この問題では単位がAh(アンペア時)なのでAs(アンペア秒)の値を3600で割る必要があります。
また細かいですが、この問題ではSの原子量は32ではなく、問題の一番初めのページに与えられている通り、32.1で計算する必要があります。
3.
3は有機化学やアミノ酸、タンパク質に関する問題です。
Ⅰでは異性体の数を数えなければなりません。問題文をよく見て、直鎖、枝分れ、環状構造のいずれまを数える必要があるかを理解しないと間違った解答になります。
Ⅱはタンパク質やアミノ酸の問題です。アミノ酸の名前を記憶しておくのと、pHによってアミノ酸の電気泳動がどのようになるかの理解が必要です。
<終わり>